甲斐駒ケ岳・赤蜘蛛ルート物語第2話⑤ <可能性を求めて>

登攀メンバーは河西公子76歳、井上進69歳、清野秋雄61歳、山田敏喜40歳の4名。
河西公子は満身創痍だ。
胃の摘出、腰椎損傷、加齢という大きなハンディキャップを抱えているが、大陸生まれで、生死の狭間を潜り抜けてきた体験から、常人では計り知れない精神力と行動力を持っている。
清野秋雄は中堅といったところだが、馬力と思い切りの良さがある。
山田敏喜は、クライミングはまだビギナーだが、身体の柔軟さを生かしたスピードが期待できる。
二人とも磨き方によっては素晴らしく輝く宝石の原石なのだ。
リーダーの井上進は、右腕のほとんど利かない身体障害者だ。
あの忌まわしい騒動の後、3名は井上進と師弟の契りを結んだ。
井上進は、体験してきたすべてを弟子に与え、弟子達は又、後世に伝えるための契りだ。
登攀に不可能などあるはずがない、どこかに解決の糸口があるはずだ。
知恵の輪と同じで、糸口さえ見つかれば簡単に解決できると思っている。
なにはともあれ、行動しながら一つずつ問題を解決する事にした。
河西公子が少しでも余裕をもって行動するためには、井上、清野、山田が彼女から絶対的に信頼してもらえるようになる事だ。
そのために、河西公子はさておいて、清野秋雄と山田敏喜の特訓が始まった。
自分の身体に合わせたアブミの作り方、乗り方、移動の仕方、架け替え方法、身体の固定方法。
アブミ操作だけでも、彼らが今までやってきた、お遊び程度の技術ではとてもダイヤモンドフランケには通用しないのだ、井上進の檄が次第に激しくなる。
高等技術を身に付けるために、最初はいろいろの小道具を使わなければならないが、いずれはそれも不必要になるだろう。
ザイルの使い方も次第に複雑な方法を教え、反復練習を続ける訳は…
パートナーを疲れさせないためのザイルワークであり、必要不可欠な技術なのだ。
二人の特訓と平行して河西公子のクライミンググッズ探しも始まった。
腰の一点に負担の掛からない工夫も解決した。
次は、支点の間隔が遠いアブミの架け替え用に、台所用S字型ロングハンガーも用意した。
40センチのロングハンガーは彼女にとって大きな効果が期待できそうだ。
途中で休憩するための腰掛用シートも作った。
改良の余地はまだあるが、これがあれば両手を離しても大丈夫だから、宙吊りのままでもビヴァークできる。
トレーニングはもっぱら、ダイヤモンドフランケとほぼ同じ条件の場所に限定してのイメージトレーニングだ。
清野秋雄と山田敏喜には過酷な課題を要求しながら、一方河西公子にはじっくりと用具の使い方に馴染んでもらっている、時間はまだ充分ある、あせってはいけない。
トレーニングを重ねるごとに、河西公子、清野秋雄、山田敏喜の動きにリズムが出てきて、登攀の可能性は次第に大きくなってきた。
それぞれの技術の向上は当然の事だが、何よりも重要な事は、全体のリズムを作り出す適切なタイミングを逃さない事であり、それがチームワークになってくる。
嬉しいことに、可能性を求めてひるまない、彼らの登攀意欲が益々旺盛になってきた事だ。

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登攀の可能性が非常に高くなった今思う事…
もし…万が一…烙印を押された爺婆達が登攀に成功したら…
去っていった嘗てのメンバー達ははどう思うのだろうか?
河西公子、清野秋雄、山田敏喜、井上進の4名は、ダイヤモンドフランケの岩壁に咲くサクラソウのように、美しく開花しようとしている。

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