あぶちゃん日記

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<<   作成日時 : 2014/08/12 16:49   >>

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あの日あの時
 あの日は大相撲の、関脇T関の引退相撲に招かれて両国国技館へ行っていた。
二日前にA関が横綱に昇進して、国技館での初めての横綱土俵入りを見た後、T関の引退相撲と断髪式が終わってから、イチマサ社長と浅草の街に繰り出した。浅草寺を参詣後、男の裸を見た後はやっぱり女の裸を観るってもんだべさって事になって、R座の客となった。
R座は日本でも有名なストリップ劇場で、此処に出演するダンサー達は雑誌のグラビアに登場する絶世の美女ばかりが出演する所だ。
 ファンファーレが鳴り緞帳が上がると、ドライアイスの靄の中から素晴らしいプロポーションがシルエットとなって浮かび上がり、やがて色とりどりのライトに照らされて綺麗なオネーチャンの裸体がおいら達の目の前に立った。
 何十年も若い女性の裸を観た事の無いおいら達の全身は、言うまでも無く緊張してしまった。
ドサ回りのダンサーと違って客に媚びるでもなく、おいら達に目線を向けるのだけれど実に美しかったな。
でも…何となく照れ臭くって…本当は観たくてみたくて堪らないのに「女の裸なんか興味はないよ!」…て、素振りで顔を手で覆って狸寝入りの仕草をしちゃったりして…でもね、本当の事を言うと指の隙間から覗いていたのだけれど…ダンサーが仰向けになって両脚を全開したら、観音様のアリガタ〜イお姿が現れて、イチマサ社長とおいらは狸寝入りなんかしていられなくってね…恥ずかしながら、蟹の目玉のようになっちゃったのさ。
二人は心の中でパン…パンって柏手を打って帰って来た。

 あの日はイチマサ社長の家の道端で、隣組の面々が集まって藤の花見をしていた。
大きなU字溝の中で炭火がコーコーと燃え盛り、カツオのたたきを作って食べていた。魚市場から届いたばかりの小イワシを手開きしながら食べる刺身はじつに旨い。オードブルも旨い、酒も旨い、ビールも旨い。
 なにしろ道端での宴会だから通行人たちの飛び入りが次々と現れる。
と…某県会議員先生が、俺も仲間に入れてくれと言って一座に加わった。
 おいらたちの隣組には、三種の神器なるものがあって隣組長が持ち回りで管理している。
三種の神器とは…簡易トイレの大便用オマル、女性用の尿瓶、男性用の尿瓶の事だ。
 オマルは料理の盛り付け用で、女性用尿瓶は受け口が三角形になっているから日本酒用、男性用尿瓶はビール用に使っていた。
グラスは当然の如く検尿器に似た色付き紙コップだ。
 検尿器そっくりの紙コップを渡された議員先生は?????

おいらたち -――― 先生、お飲み物は
議員先生  -――― 最初はビールだな
おいらたち -――― ハイ どうぞ
議員先生  -――― キサマ〜、俺に小便を飲ます気か〜!酒だ!酒!
  おいらたち -――― ハイ どうぞ
  議員先生  -――― キッキッキッキサマラ〜!

 尿瓶から注がれるビールと日本酒を小便と間違えたようで、しかもオードブルを盛り付けたオマルを見て、又またびっくり仰天した議員先生は可及的速やかに退散していった。
 その直後、隣のおばさんが…U字溝の上で焼かれているカツオのたたきを見て、まぁ美味しそう!
おばさんはお調子者として近所でも有名な人だ。
後で届けてあげるからねとイチマサ社長。
 急いでオマルの中身を片付けて…筋向いの食堂にカレーライスを注文してオマルに盛り付けて貰った。
このままではイマイチ面白くないと言うイチマサ社長の提言でひと手間かける事にした。
 ティッシュペーパーをクシャクシャにしてカレーの上に乗せると、中々どうして…とてもリアルな盛り付けになった所でおばさん宅へ宅配だ。
マ〜マ〜すみませんねと、玄関先で受け取ったおばさんの目線がオマルに…
ギャァ〜と叫んだ口から、総入れ歯が跳び出してオマルの中に落ちた。

 あの日の夜は、イチマサ社長率いる隣組漁業組合の面々で魚捕りをしていた。
明日の夜、漁業組合の総会に提供する魚が足りなかったからだ。
なにしろ家族同伴だから20数名の人数で、一人頭二匹は食べたい。
煮付けや塩焼きも食べたいし、炊き込みご飯も食べたかったから大変だった。
 魚は順調に捕れていた。
と…突然真っ暗闇の中で、強烈なライトがおいら達を照らし出すと同時に怒鳴り声がした。
日本手拭で頬被りをしているが、身体中に蜘蛛の巣が纏わり付いたイチマサ社長の立ち姿は見るからに異様な風貌であり、誰が見ても不審者そのものだった。
 怒鳴りつけてきたのはラブホテルの管理人だった。
おいらたちはラブホテルの覗きと間違えられたのだったが、警察署に通報されずに済んだ事は不幸中の幸いだった。

 今だから言えるが、あの日の夜もイチマサ社長と一緒だった。
河川敷でキャンプをして、したたか酔っ払っていた。
 キャンプファイヤーの炎の向こうにホテルの風呂場の灯りが見える。
ちょっと覗きに行こうか?と言う事になって百数十メートルもある川を渡り始めたが、酔っ払っているから足元がおぼつかない。
流されないように一列横隊になって肩を組み、腰まで浸かって必死になって川を渡った。
 ホテルの周りに張り巡らされた有刺鉄線を潜り抜け、バラ藪もなんのその。
偵察隊が風呂場を伺うとウッシッシッシッ!押し殺した声でイイゾ〜。
イチマサ社長が先頭になって脱兎のごとくバラ藪の中を登ってくる。
 手拭で頬被りした一列横隊の面々の顔が風呂場の窓に並んだ時、パチンッ!と言う音と共に灯りが消えて、浴衣を纏った婦人の後姿がシルエットとなって消えて行った。
 一同の口はあんぐりと開いたままだったが、顔も手足も有刺鉄線やバラ藪の中での行軍だったから傷だらけになっていた。

 そしてまた別の日の夜、イチマサ社長宅は飲めや唄への大騒ぎとなっていた。
酒も旨いし料理も旨い。小皿叩いてチャンチキオケサとなった。
三枚の座布団を丸めて作った獅子頭で獅子舞も始まり、おんたけやま(信州伊那地方に伝わる民謡・伊那節の元唄)も出て、宴は止まるところを知らない。
酔いつぶれて眠る者も出た。
 酔客たちはその寝顔を見て、この顔はイマイチだから化粧をしてあげようと、それぞれが一筆ずつ墨で化粧を…仕上がった顔は見事な顔立ちとなって、それを肴に又一献。
 宴が最高潮になった時、玄関の戸が荒々しく開くと、小皿叩いて上機嫌の同席者の妻君が入って来て、超高周波の甲高い声で
「あなた!こんな時に何やっていんのよ!」
妻君の眉毛は、アナログ時計の10時10分のように吊り上り、目尻はピクピク痙攣して、唇はヤカンが掛かるほどに尖っていた。
 宴は一瞬にして沈黙の場となり、一同は我に返った。
そうだ。先程イチマサ社長の母上が逝去され、葬式も終わり、今はその精進落しをしていたのだった。

 あの日はどう考えても無事に帰れるとは思っていなかった。
な〜むあみだぶ、な〜むあみだぶ、南無阿弥陀仏、な〜むあみだぶ、チ〜ン〜。
僧侶がうやうやしく壇上に進む。
 チ〜ン〜、ジャラ〜ン、ボ〜ン〜。拝礼〜。チン。お直り下さい。
 こたびは誠にもってご愁傷様です。
イチマサ家に於かれましては、蝶よ花よと慈しみ育て上げたご息女を失うご両親の心痛はいかばかりか。
はたまたK家に於かれてはこれから先、嫁と姑の飽くなき戦いが始まる訳でありまして、誠にもってご愁傷様です、願わくは…チ〜ン〜。
K家のご一族は呆気に取られて只々沈黙。
イチマサ家一族は立ち上がってヤンヤの喝采。
突然、けたたましいアップテンポの曲が流れ、若い僧侶たちがチン、ジャラン、ボンと楽器を打ち鳴らして唄い踊り始めた。
流れる曲は堀内孝雄の「運が良けりゃ」。
チンは…仏壇店から買ってきたやつ。
ボンは…中近東の民族楽器で間に合わせた。
ジャランは…取り敢えず鍋の蓋。
僧侶の持つモジャモジャした箒のような払子(ほっす)は、知り合いの坊さんから借りてきた。
衣装は玩具屋さんから調達した禿げのカツラと、衣は町内会の備品の紺の暖簾。
イチマサ家の長女が嫁いだ時の結婚披露宴の時の隣組衆の余興だった。

あの日の夜更け…おいらはイチマサ家の奥座敷で奥様の添い寝をしていた。
奥さまは安らかな寝顔でね、そりゃ〜すごく幸せそうな表情だよ。
これだけはきっぱりと言っておくけど、奥さまの浮気相手じゃないよ。
 実はね、奥さまは今日死んじゃってさ。
イチマサ兄貴は悲しくてかなしくて…とても独りじゃ居られないって…
 おいらとイチマサ社長は切ってもきれない義兄弟なのさ。
奥さまに語りかけながら呑む酒の味は、旨くは無かったけど悪酔いはしなかったよ。
明日になれば奥さまはこの世から姿を消してしまから、イチマサ兄貴は残された僅かな時間を、一生懸命奥さまと過ごしているのだと思うよ。
でも…誰かに合槌を打って貰いたかったのだろうね。
それでイチマサ社長と奥さまの添い寝に付き合っていた訳。
次の日、奥さまは灰になってこの世から居なくなってしまった。

 そして、あの日じゃなくて今日の事。
電話の呼び出し音が聞こえるたびにギクッ!とする毎日が続いていた。
恐れていた訃報が入ったのは正午を回った直後だった。
 おいらが産まれてから70年…兄貴のようなイチマサ社長が不治の病に侵されて帰らぬ人となった。
豪放磊落に見えるが、すごく神経の細やかな人だった。
イチマサ社長ともっともっと悪戯をしたかったのに…愚痴は言うまい。
言ったところで帰ってはこない。イチマサ兄貴は死んじゃった…残念無念。
 凍てついた闇夜、人々は暖かさを求めて日の出を待ち望む。
アルプスの山なみから太陽が顔を出して大地を温める。
温められた大地から新しい生命が誕生する。
イチマサ社長は太陽だった。
西の空に沈むはずの太陽が、真昼の天空から突然消えてしまった。
 その深夜のイチマサ家の奥座敷はおいらとイチマサ社長以外は誰も居ない。
線香の煙に咽ながら一升瓶を抱えて二人で飲む酒は、いくら呑んでも酔ってはこない。
おいらはコップ酒をあおりながら「もう一杯どう?」と言いながらイチマサ社長の唇を酒で濡らす。もう何十回繰り返している事か。
 イチマサ社長の唇がすぐに渇いていくところを見ると、どうやら呑んでいるらしい。
目元がニンマリとしてきたようだ。

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